医業経営支援

開業支援

私たちは、「開業ありき」のご支援は決してしません。事業者としてのリスクを明確にして、開業が適切な選択であるかをご判断いただくことがお手伝いをさせていただいています。

開業はゴールではない

開業はゴールではなく、スタート地点に立ったに過ぎません。

開業事態は、さほど難しいことではなく、医師であれば所定の手続きを経たうえで、比較的容易に開業することが可能です。

診療所の数は増え続け、全国で10万件を突破しました。地域にもよりますが、クリニック1件あたりが獲得できる患者も減少傾向にあります。さらに国の医療費抑制の動きも相まって、診療報酬も減算が続いています。

そのような環境でも、医師がクリニックを開業するということは、販売店や飲食店を始めるのとは大きく異なります。一般的に起業した個人事業主のうち、5年後に事業を継続している割合は約25%といわれ、およそ4分の3が廃業していることになります。

対して診療所の倒産件数は徐々に増加はしているものの、毎年数件~20件程度しかありません。開業すれば自動的に患者が集まり、経営に困ることはないという時代はすでに終わりを迎えていますが、まだまだ競争力のある業界だといえます。しかも、医療機関の開業は単に起業にとどまらず、これから更に進展する超高齢社会に対するインフラ整備へ寄与する点で、他業種とは違う意味を持つことになります。

開業の目的は、「プライベートの時間を確保したい」、「自分の診療スタイルで医療を提供したい」、「今よりも多くの収入を得たい」など様々な動機が存在すると思います。しかし、一番大事なのは、開業というスタート地点に立ち、事業の存続と、良質な医療の提供が継続して行われることではないでしょうか。

開業に成功するには経営者としての自覚が必要

開業に成功しているクリニックは、院長が経営者としての自覚をもったクリニックです。

クリニックを開業した瞬間から、院長は医師であると同時に経営者となります。経営者とは、事業や組織の経営に責任を持つ立場にいる者を指します。ところが、実際には、経営者としての経験をもった開業医は少ないのが現実です。

多くの先生方は経営についての勉強や経験をしたことがありません。勤務医時代は日々の診療が中心でしたが、開業するとそれに加えて、スタッフの労務管理や会計、様々な諸手続きを自身で行う必要があります。ところが、これらの業務を税理士や社労士、または採用した事務長などに丸投げというケースが多く見られます。

クリニックとして地域医療に貢献し、発展を望むのであれば、開業時に投下した資本を回収して、利益を積み上げていく必要があります。自身のクリニックなので、院長本人がクリニックの経営状況を把握しておかなければなりません。

事業をなんとしても継続するという経営者としての強い気概がなければ、クリニックとしての成長は困難です。開業を決意した時点から経営者としての自覚が要求されます。

開業までに必要なこと

クリニックを開業しようと決意した場合、一般的には次のような事項を決めていく必要があります。

  • 経営理念の作成
  • 開業地の選定と診療圏調査の実施
  • 開業スケジュールの作成
  • 事業計画の立案
  • 資金調達
  • 設計・施工
  • 医療機器の選定
  • PR戦略
  • 求人・採用
  • リスクマネジメント
  • 行政手続
  • その他

経営理念を含めた診療コンセプトや、開業スタイル、資金調達や医療機器の選定、スタッフの採用活動などです。また、関係各所への申請や届出が必要となります。特に保健所や厚生局への提出書類は、タイミングを間違うと予定通り開業できないケースがあるので注意が必要です。

経営理念の作成

開業を決意して最初に決めなければならないのは経営理念です。

経営理念とは、経営者の想いや信念を言葉に表したもので、活動方針の基礎となる基本的な考えのことです。これをクリニックにあてはめると、「開業の目的」や「診療方針」を決定することに相当します。

開業に関しては立地条件やコストにとらわれがちです。経営理念が定まっていない状態では失敗の可能性が高まります。自身のスタイルに合わない開業をすることで集患が上手くいかない、不必要な設備を導入してしまうなどのリスクが考えられます。

幅広い年齢をターゲットにしたファミリークリニックなのか、高齢者医療を中心に在宅診療を取り入れるのかなど、開業してどんな医療を提供したいのかを明確にする必要があります。まずは、クリニックのあるべき姿を決めることが開業への第1歩です。

開業場所の選定と診療圏調査の実施

開業場所の選定と診療圏調査の実施は、経営理念や診療方針の次に重要な決定事項となります。

開業場所は1度決めると簡単には変更できません。新規開業におけるパターンとして、戸建かテナントで分岐します。開業形態は、クリニックの診療スタイルや導入する設備、資金計画などの様々な制約を考慮して慎重に検討することが大切です。

戸建開業の場合は、確保できる敷地によっては設計の自由度が高く、車での来院を含め、理想とする診療を実現できる可能性が高まります。その反面、コストが高く当初の資金繰りに苦労する可能性があります。

テナント開業の場合は、物件の選択肢が多く、戸建に比べてコストを低く抑えることが可能となります。特に医療モールや商業施設などは、認知度が高く、集患もしやすい傾向にあります。

デメリットは、ビルの設計によっては給排水や電気容量などで制約を受ける場合があるので、レイアウトの自由度は低くなることです。特に、医療モールや商業施設については運営会社による多くの制約を受ける可能性があります。

どちらの開業形態にするかは、診療科目や地域、導入設備など多くの項目を加味して検討します。

開業に適した場所は?

開業に適した場所は、下記のような場所です。

  • 交通の便がよくアクセスしやすい
  • 周辺の受療人口が多い
  • 開業のためのコストが安い
  • 競合クリニックが少ない

このような完璧な立地がそう簡単にみつかるでしょうか?
当然ながら難しいのが現実です。自身のクリニックに合わせて、優先順位を定めて決定することになります。特徴を整理すると以下のようになります。

市内中心部郊外
メリット
  • アクセスしやすい
  • 人口が多い
  • 駅前であればスタッフ採用がしやすい
  • 競合が少ない
  • 集患がしやすい
  • 患者の特徴を把握しやすい
  • 駐車場を確保できる
デメリット
  • 競合が多い
  • アクセスが良いほどコストが高い
  • 駐車場が確保できない
  • 目立ちにくい
  • 開業場所がみつかりづらい
  • 人口構造が変わる可能性がある
  • 開業形態によってコストが高い
  • 調剤薬局が近隣にないケースがある

市内中心部や駅前での開業は、交通の便がよく、人も多く集まりますが、その分、競合クリニックも増加します。また、初期投資は低くても、運営費や人件費などのランニングコストが高くなる傾向にあります。

それに対して、郊外での開業は、公共交通機関でのアクセスは不便ですが、車移動を中心とした場所では、集患に影響がなく、むしろ市内中心部よりも優れている場合があります。ただし、新興住宅地などの人気エリアは、土地代などの初期投資が大きくなる可能性があるので注意が必要です。また、先に他のクリニックの出店計画が決まっている場合もあるので、より緻密な情報収集が必須となります。

診療圏調査とは?

診療圏調査とは、ある場所で開業した場合、1日あたりどれくらいの患者が来院するかを推計した調査です。

開業エリアの人口や受療率、競合クリニックなどを加味して算出されます。受療率とは、ある特定の日に、疾病治療のために通院した患者数を人口10万人当たりで除した比率のことで、厚生労働省が統計を出しています。

診療圏調査は、医療機器メーカーやディーラー、リース会社などで提供しているので、利用をお勧めします。精度や内容は各社によって異なるので、判断のポイントを押さえる必要があります。

診療圏調査のポイント

診療圏調査をするうえでのポイントは、商圏の設定です。

開業場所を中心として、半径500mから1kmで設定するのが一般的ですが、標榜科目や地域によって異なります。範囲を広くするほど人口は増えますが、同時に競合が増えるので、推計患者が多くなるとは限りません。

また、生活動線を意識することを忘れてはなりません。線路や河川、駅前と駅裏などは生活導線として分断される可能性があります。さらにいえば、昼間人口と夜間人口も意識する必要があります。

昼間人口とは、他の地域から通勤してくる人口と、他の地域に通勤する人口を差し引きしたものです。対して、常駐人口のことを夜間人口といいます。都心部では昼間人口が多くなり、ベットタウンなどでは夜間人口が多くなる傾向にあります。診療時間を決定する際は、これらのことも意識する必要があります。

生活動線や昼間人口を取り入れた診療圏調査を行える業者も存在するので、確認してみるといいでしょう。ただ、いずれにしても、診療圏調査を鵜呑みにしてはなりません。自身の足で周辺の環境を確認することが、何よりも重要です。

開業スケジュールの策定

開業計画の核となるのが、進捗管理の役割も果たす開業スケジュールです。

経営理念や診療方針などの基本的な構想を策定しながら、全体のスケジュールを調整していきます。開業時期が決まっている場合は、おのずと開業日から逆算することになります。

開業場所の選定、資金調達、設計・施工、医療機器の購入やスタッフ採用と研修など様々なことが同時に進行します。開設に関しての申請や届出、内覧会の開催と、開院までにやらなければならないことが目白押しです。

開業を決めてから、実際に開院するまでの期間は1~2年ほどになるのが一般的です。その間、現在の職場に勤務しながら、休日などを利用して準備を進めることになります。どんなに余裕をもって準備をしても、開業が近づくほど多忙になるケースが大半です。

重要な判断がおろそかにならないように、ポイントを押さえてやるべきことを整理し、予期しない事態に見舞われても対応できるように、全体の流れを把握しておきましょう。

事業計画の立案

事業計画とは、経営計画を実現するための具体的なアクションを数字に落とし込む作業で、金融機関から融資を受ける際にも必須となる書類です。

事業計画を作成する場合も、経営理念や診療方針が大切になります。基本的なコンセプトが決定していなければ、どんな患者を診療して、そのためにどのような投資が必要なのかが明確にならず、収支を見積もることができません。

また、初期投資や運転資金は多めに計上するようにしましょう。準備中に予定外の費用が発生する可能性もあるので、予備費として想定しておく必要があります。導入を迷っている設備なども計画に入れておくようにします。後から不足が生じた場合、金融機関から借入が可能だとしても、手続きのやり直しになり、スケジュールに遅れが発生する可能性があります。

事業計画の作成を税理士に依頼されることもあるかと思います。しかし、税理士は税金についての専門家であって、経営のプロではありません。特に医業に詳しい税理士は少ないのが実情であることを頭に入れておく必要があります。

一概にはいえませんが、税理士などに依頼する場合でも、クリニックの目標や収益目標などは、自分自身で1度整理するのをおすすめします。可能な限り、医業経営に詳しい専門家をパートナーに迎え、無理のない事業計画を作成しましょう。

資金調達

資金調達とは、名前のとおり開業に必要なお金を用意することです。

経営理念や診療方針などの基本コンセプト、開業地が決定すれば、親族からの借入れや金融機関からの借入れなどのための交渉を行います。前述のように策定した事業計画により、建築工事日や設備導入費用、医療機器や人件費、必要な運転資金などがある程度算出できているはずです。中長期の返済計画を踏まえて、無理のない範囲でお金の確保を図ります。

主な資金調達先

主な資金調達先は3つです。

  • 銀行などの金融機関
  • リース会社
  • 準備済みの自己資金や親族等からの借入れ
銀行などの金融機関

1つ目は、銀行などの金融機関からの借入です。

クリニックの開業の場合、資金調達は他の業種に比べてハードルはかなり下がります。よほど無理な計画で無い限り融資は降りると考えてもらって大丈夫です。医師であれば仮に開業に失敗しても、貸手としては融資の焦げつきリスクが低いためです。

簡単に借りられてしまう分、計画をはずしてしまうと、悲惨な結果になることもあり得ます。そのため、身の丈にあったプランニング大切です。また、基本的なことですが、利息の計算方法についても押さえておく必要があります。

元金均等方式は、元金を均等にして利息を上乗せします。対して、元利均等方式は、毎月の返済額が均等になるように利息と元金を返済します。元金均等方式のほうが、元利均等方式に比べて総支払額が少なくなります。

それでは、元金均等方式がいいかというと、そうとは限りません。元金均等方式は当初の支払額が多いので、キャッシュフローが苦しくなるケースが考えられます。状況に応じての選択、または組合せとなります。

リース会社

リースとは、ユーザーが使用したい物をリース会社に買い取ってもらい、それを賃貸する契約のことです。

医療機器をリースにするかどうかは悩めるポイントですが、メリット・デメリットを整理すると以下のとおりです。

リースのメリット①:銀行の融資枠に影響しない

メリットの1つ目は、銀行の融資枠に影響しないことです。

住宅ローンの残債などがある場合は、銀行の融資枠が減少することもありますが、リース契約の場合は借入に影響しません。金融機関の借入枠を確保したうえで、別枠の融資を受けるのと同等の効果を得ることができます。

リースのメリット②:初期費用を抑えられる

メリットの2つ目は、初期費用を抑えられることです。

手持ち資金が少ない場合でも、毎月一定の費用を支払うだけで、高額な医療機器も導入可能になります。また、固定資産税や減価償却の計算なども必要ないので、経理作業の手間も少なくなります。

リースのデメリット①:総支払額が多くなる

リースのデメリットの1つ目は、総支払額が多くなることです。

借入に比べ、リースの金利のほうが一般的には高くなります。そのため、購入した場合と比べると総支払額は多くなってしまいます。融資枠に余裕があり、比較的長く使用できる機器などは、購入が向いています。

リースのデメリット②:借入期間と比べて、リース期間が短い

リースのデメリットの2つ目は、借入と比べた場合、リース期間が短いことです。

機械などの設備の場合、短くても10年程度で借入をすることが可能ですが、リース契約の場合5~6年となるのが一般的です。リースのほうが短い期間で返済をするため、毎月の支払額が負担になる場合があります。

購入・リース?判断のポイント

リースにするか、購入するかの判断はケースバイケースになります。

具体的には以下のことを踏まえて検討するべきです。

  • 開業資金に余裕がある
  • 支払総額を極力抑えたい
  • 導入設備の寿命が長い、または壊れにくい(心電計やX線装置など)

上記のようなケースでは購入したほうが適していると考えられています。

  • 開業資金に余裕がない
  • 定期的に買い替えをする機械がある(電子カルテ、血液関連装置など)
  • 故障した場合に高額になる可能性がある機器(内視鏡、超音波診断装置など)

上記のようなケースでリースのほうが適していると考えられています。

いずれにしてもどちらか一方のみで揃えることはおすすめしません。状況や導入設備に応じて適切な選択をしていくこととなります。

自己資金

銀行、リース以外の資金調達手段として自己資金の投入が考えられます。

自己資金はゼロでも開業できますが、あるにこしたことはありません。銀行融資のタイミングにおける都合などで、一時的に自己資金を投入することがあります。ただ、基本的には自己資金の投入はあまりおすすめしません。

理由としては、前段の説明のとおり、医師は融資を受けやすい事情があります。自己資金は本当にいざという場合の最終手段としてお手元に残して欲しいと考えます。経営が苦しい場合は、いくら医師でも銀行が追加融資を渋る可能性があります。

設計・施工

クリニックの建築や内装業者を決める場合、主に2つの選択肢があります。

それは、設計士を利用するかどうかです。設計士を採用する場合、施工業者はコンペによって決定することになります。一般的なイメージとしてコンペ形式のほうが費用を抑えられるイメージがありますが、そうとは限りません。

コンペに参加する業者を設計士が依頼している場合などは、談合などにより、思ったほど費用が下がらないケースがあります。また、設計士に依頼をした場合、設計監理料などの費用が総工事費の6~8%ほどかかります。通常のクリニックの場合、設計。施工を一括して頼むほうが、コスト抑えられる傾向が強いです。

クリニック物件の実績がある業者を選択する

設計士の利用の有無に関わらず、いずれの場合でもポイントとなるのは、クリニックの実績がある業者を選ぶことです。

クリニックの設計には、診療方針に合わせた導線設計や、バリアフリー等への対応、保健所から最低限求められる設備や配置など独特の基準や条件があり、専門的な業者でなければ、見逃してしまうポイントがいくつもあります。

特に、医療に精通していない業者の場合、必要なスペースが確保できていない場合や、電気容量の不足、X線の防護工事に高いコストがかかるなどの不備が想定されます。工事が着手してしまうと、後戻りすることは難しく、できた場合でもスケジュールに大幅な遅れが生じることが考えられます。

設計や施工に関しては経験のある業者を選択する、もしくは医療に詳しいアドバイザーをパートナーに迎えて進めることをお勧めします。

医療機器の選定

医療機器は予算の中でも多くの割合を占める部分ですので、慎重に検討していく必要があります。

診療方針や地域のニーズ、導入後のコストや採算性などを踏まえて選定することになります。医師としてだけでなく、経営者の視点で投資に見合った効果が得られるかの判断が求められます。また、CTやMRI、X線装置などの大型機器はレイアウトにも影響するので、設計と同時に選定を行う必要があります。

医療機器の導入は、勤務医時代とは変わって、「必要」か「不要」の判断の他に、採算がとれるかどうかの判断も重要になります。CTやMRIなどの高額機器は近隣の医療機関の整備状況を踏まえて導入を検討しましょう。他の病院との連携や、外注のほうがコストを抑えられることが多いです。

多くの検査を自前でできることが理想ですが、過大投資は経営の圧迫につながります。事業計画と照らし合わせながら、キャッシュフローを意識して慎重に検討することが大切です。

プロモーション戦略の立案

広告もクリニック経営における重要な戦略の1つです。

クリニックが宣伝をするなんていかがなものかと感じる医師も多いですが、開業して椅子に座って待っているだけで患者が来院する時代は終わりを迎えています。広告規制には注意しながらも、適切なプロモーション活動を行っていく必要があります。 主な広告戦略は下記のとおりです。

内覧会

内覧会の開催は開業直前に広告ができる最大のチャンスです。

診療圏調査のデータを元に近隣住民へチラシの配布を行います。医療には広告規制があるため、過剰な広告は指導の対象になってしまうケースも考えられるので、大体的にアピールできるチャンスはこの内覧会となります。そのため、配布エリアは自院の診療圏よりも少し広めにとるのがポイントです。

地域住民に気軽に足を運んでもらって、クリニックの存在を知ってもらいましょう。クリニックの雰囲気や導入設備、先生やスタッフの人柄を知ってもらえる貴重な機会です。健康相談会の開催や、来院された方への簡単な検査の体験なども喜んでもらえるのでおすすめです。

パンフレット

クリニックのパンフレットやリーフレットなどを作成するのも広告戦略の1つとなります。

パンフレットは口コミを誘発するツールになり得ます。患者が医療機関を選ぶ際の情報源として、厚生労働省や自治体が行った調査によると、70%以上が家族や友人・知人からの紹介と答えているようです。つまり口コミが大半を占めています。

口コミとはいっても、医療に精通している人でなければ、うまくクリニックの良さを友人や知人に紹介するのは難しい可能性もあります。その際、有効になるのがパンフレットです。待合室への設置や、新患で来院した方に会計時に配布するなど、工夫をすることで目に触れてもらう機会が増えます。

パンフレットには、診療日や診療時間などの基本的な項目に加えて、導入している設備や知ってもらいたい情報を盛り込みます。先生の経歴や顔写真、親しみが湧くストーリーなど掲載するのも有用です。

WEBサイト

ホームページを含めWEBを利用した戦略の構築は必須の時代となりました。

以前は、とりあえずの感覚でホームページを制作している開業医もいましたが、それでは通用しません。クリニックを選ぶ際の情報源として、インターネットで検索するという行為は、口コミに次ぐ第2位となっています。

自身に置き換えて考えてみて欲しいのですが、何かをインターネットで検索した場合、目的の情報が書いてあるページを端から端まで熟読するでしょうか?おそらく大多数の方が、直感的に見やすいサイトを選んで参照するはずです。

クリニックも同じです。仮に口コミでお勧めのクリニックを教えてもらった場合でも、多くの人がホームページをチェックするでしょう。その際に、時代に合っていない古臭い見た目や、スマートフォンに対応していないサイトであれば、見向きされない可能性があります。

予約システムまで導入するかどうかは、診療方針にもよりますが、最低限来院につながるように工夫したホームページが必要です。最近ではSNSを有効活用しているクリニックも登場しています。費用を抑えるために、自身でWEBページを制作される医師もいらっしゃいますが、基本は専門家に依頼するのをお勧めします。

ロードサイン他

他に検討したいのが、アナログメディアの代表格であるロードサインです。

野立看板や電柱広告、広い意味で捉えれば、駅のホームに設置される看板や、電車やバスなどの車内アナウンスが含まれます。インターネットが普及する以前は、最も重要な媒体の1つでした。

WEBが全盛期の時代に、ロードサインなんてと考えがちですが、非常に重要な要素となります。一般的に健康な人は近隣にあるクリニックの存在を意識しません。健康状態が悪くなって初めて近くのクリニックを意識します。

そのため、普段は視認性の高い場所に看板を設置し、少しでもクリニックの存在を知ってもらう必要があります。住宅地などが開業地の場合は、自院への道案内として電柱広告も非常に有効です。

他にも、ラジオやテレビCMなどの電波媒体が考えられます。費用は高い傾向にありますが、あくまでも取材を受けるという形がとれれば、無料で出演できるケースもあります。

求人・採用活動

クリニックの運営は、医師1人の力だけでは成立しません。

開業医は診察室で診療に専念するため、スタッフはクリニックの顔として重要な存在となります。人件費が経費に占める割合は、診療方針や標榜科目によっても違ってきますが、15~20%程度の割合を占めます。

勤務医のイメージで、診療に集中したいという想いから、必要以上にスタッフを雇用してしまうと、利益を圧迫し、あっといまに資金が不足する結果になりかねません。

求人と採用面接のポイント

求人と面接におけるポイントを解説します。

  • 求人を行う数ヶ月前から、他のクリニックの採用情報をチェックする
  • 面接の時間をしっかり確保する
  • 開業前の研修を充実させる
求人を行う数ヶ月前から、他のクリニックの採用情報をチェックする

ポイントの1つ目は、他のクリニックの求人内容をよくチェックすることです。

応募者は複数のクリニックを比較して応募を決定します。特に賃金などの手当や福利厚生は意思決定にあたって多くの要素を占めます。早い段階で他の求人をチェックすることで、採用の傾向を把握できます。数ヶ月前から掲載が続いているクリニックは、賃金水準が低いことが多いです。

基本的に応募者は、最低水準の賃金で採用されると思って応募してきます。事業計画をオーバーするほどの賃金で雇う必要はありませんが、地域の水準によっては多少見直す必要があります。

面接の時間をしっかり確保する

ポイントの2つ目は、面接の時間をしっかり確保することです。

患者に接する時間が最も多くなるのは、医師ではなくスタッフです。そのため、オープニングスタッフはクリニックの雰囲気を映し出す鏡となる重要なスタッフです。コミュニケーション能力に問題のあるスタッフを雇ってしまうと、イメージを損なう悪い結果となります。

面接においては、1人1人しっかり時間を確保しましょう。忙しいあまりに、1人あたりの面接時間を20分程度に設定するドクターも多いですが、それでは採用に値するかの判断は困難で、基本的な確認のみで終了してしまいます。

1度や2度の面接で、人を判断することは難しいのが現実ですが、できる限りの努力は尽くしたいものです。質問のポイントは、「はい」「いいえ」で答えられる質問をできるだけ避けることです。特に前職の退職理由は必ず確認し、性格や価値観などの見えにくい特徴を把握するようにしましょう。

開業前の研修を充実させる

ポイントの3つ目は、雇入後の研修を充実させることです。

患者さんから見れば、スタッフの印象は、クリニックの印象とイコールとなり、患者満足度に大きく影響します。可能であれば、多少の費用を掛けてでも、接遇やマナーの研修を行うことをお勧めします。

クリニックでの就業経験がある医療事務や看護師は、以前の勤務先でのルールを勝手に採用する傾向にあります。それらの対応が先生の診療方針と合致していないケースも見受けられます。研修を通じたスタッフとのコミュニケーションが、自院のルールを明確にします。

また、接遇やマナー研修以外にも、医療機器に関する取り扱いの研修や、開業前の模擬診療なども大事な研修です。経営理念や診療方針をスタッフに十二分に理解してもらって開業を迎えるようにしましょう。

リスクマネジメント

万が一のリスクに備えることも、経営者としての重要な仕事です。

どんなに健康に自身があっても、思いがけない事故や病気のリスクは排除できません。健康面のトラブルで長期休養した場合でも、借入金やリース料金、人件費などの固定費の支払いを避けることはできません。

すべてのリスクに備えることは、費用的にも難しい場合がありますが、最低限備える必要がある保険として下記が考えられます。

  • 生命保険
  • 所得補償保険
  • 医師賠償責任保険
  • 火災保険

生命保険

開業時における生命保険の見直し作業は必須です。

生命保険の見直しは無駄な保険料の削減という意味もありますが、先生に万が一のことがあった場合、残された家族に負担をかけない最低限の清算金と生活費を保障する必要があります。借入時に団体信用生命保険に加入していれば、借入金は返済できるかもしれませんが、リースの精算やテナントなどの違約金の支払いについては忘れがちです。

クリニック経営におけるランニングコストと捉えて、最低限の生命保険には加入するようにしましょう。

所得補償保険

病気やケガで長期療養を強いられた場合に、補償を受けられるのが所得補償保険です。

病気やケガで休診せざるを得ない場合、生命保険では対応することができません。医療保険に加入しているケースもありますが、その場合でも基本的には入院期間しか保障されません。

自宅療養を含め、長期の休業期間を補償してくれるのが、所得補償保険となります。受け取った保険金は、借入金やリース料、人件費などの固定費、自身の生活費に当てることが可能です。

休業した場合の経済的損失が大きくなる開業にとって、加入は必須となります。

医師賠償責任保険

忘れてはならないのが、医療訴訟への備えです。

インターネットの普及の影響もあり、患者や家族が医療情報を入手しやすい環境になってきています。どんなに優秀な医師でも、多少のトラブルやクレームを受けることが想定されます。賠償責任に備えることも、自身やスタッフを守る経営者としての責任です。

医師賠償責任保険は、日本医師会のA1会員となることで自動的に付保されます。医師会に入会せずに開業する場合などは、民間の保険を利用することになります。その場合、クリニック内でおきた医療事故以外の賠償についてはカバーされないケースが多いので注意が必要です。

火災保険

クリニックを開業するにあたって、火災保険に加入しない医師はおそらくいないでしょう。

リスク対策として、火災保険に加入することは必須です。ただ、火災保険は非常に細かい補償内容になるので、専門家に相談するのがベストです。火災以外にも盗難が補償されるのか、水災はどうなるのかなど、チェックすべき項目が多くあります。

地域によっては、医師会の団体割引を利用して割安に加入できる場合もあるので、所属している医師会に確認してみるといいでしょう。

各種行政手続き

診療所を開設するためには、保健所や厚生局などへの届出が必要となります。

提出する書類のボリュームは想像以上に多く、煩雑です。特に下記の2点は提出時期を間違えると、予定通り診療をスタートできないこととなるので注意が必要です。

  • 診療所開設届出書(保健所)
  • 保険医療機関指定申請書(厚生局)

診療所開設届出書(保健所)

1つ目は、保健所へ提出する「診療所開設届出書」です。

一般的には、開業前月の月初に管轄の保健所へ提出します。届出書には、図面や医師免許などの添付書類が必要になり、保健所や担当などによって微妙に違ってきますので、事前に確認をお勧めします。

特に忘れがちなのが、図面の事前確認です。物件が決定した段階で保健所を訪問して確認するようにしましょう。その際、届出のスケジュールについて打合せをしておくと安心です。

保険医療機関指定申請書(厚生局)

2つ目は、厚生局へ提出する「保険医療機関指定申請書」です。

保健所へ開設届出書を提出した段階で自由診療は行うことができますが、保険診療を行うことはできません。厚生局へ書類を提出し、指定を受けることで保険診療が可能となります。提出時期は、開業前月の15日までとなり、基本的には翌月1日に指定を受けることになります。

その他の届出

上記の2点を提出することで、ひとまず診療を始めることは可能ですが、診療内容によっては他の届出も必要になります。

厚生局へ提出する施設基準や、生活保護指定医療機関申請書、労災指定医療機関申請書などが挙げられます。また、待合室の面積やベッドの数、従業員数によっては防火管理者の取得や消防計画の提出なども発生します。

上記は、基本的な提出書類の一例となります。開業する地域によって、提出時期やルールが異なることがあるので、各機関に相談や確認を実施のうえ、進めることが大切です。

信頼できるパートナーをみつける

開業に失敗しないためには、信頼できるパートナーをみつけることです。

失敗しない開業をするためには、よき相談者となるパートナーの存在が重要です。独学で勉強をして開業する医師は多くなく、ほとんどの方が、医療機器メーカーやディーラーの開業支援を受けてクリニックをオープンしています。

そのような開業支援を否定はしませんし、開業コンサルティング会社を必ず利用したほうが良いと進めることもありません。ただし、それぞれの業界の構造を理解したうえでお付き合いする必要があると考えます。

例えば、メーカーやディーラーは商品を販売することが目的ですし、不動産会社は土地や建物の販売や仲介、会計事務所は顧問になることが目的です。中には、開業させることを目的に自分たちの利益しか考えない業者も一定数も存在します。

私たちは、開業させることを目的にすることはありません。常に先生側の立場にたち、適切なアドバイスを実施し、時には開業の中止を助言することすらあり得ます。信頼できるパートナーを見つけることは、開業を成功に導く第1歩になります。

お問い合わせ

  • phone_iphone022-347-3177
  • print022-347-3171